犬や猫が自分のしっぽを追いかけて傷つける…そんなときは?

「ふと見るといつもしっぽを追いかけている」「自分でしっぽを噛んで血が出てしまった」など、犬や猫のしっぽに関する悩みをお持ちではありませんか?今回はしっぽを追いかける行動や自傷行為について、相模原どうぶつ医療センター(神奈川県相模原市)で行動診療科を担当する獣医師・石井綾乃がご説明します。

石井綾乃 獣医師、博士(獣医学)

神奈川県横須賀市出身。日本大学生物資源科学部獣医学科卒業、日本獣医生命科学大学大学院博士課程修了。日本獣医動物行動研究会所属、どうぶつの総合病院行動診療科研修医。日本獣医生命科学大学大学院および理化学研究所脳科学総合研究センター神経老化制御研究チーム大学院生リサーチ・アソシエイトを経て、獣医学博士号を取得し、現職。

[愛犬&愛猫]
猫のなめろうくんは当院の猫を保護する活動「ねこむすび
のご縁で家族となりました。犬のさんがくんはブリーダーさんを直接訪問し、家族に迎えました。医療センターのしつけ教室では2頭とも患者さんであるワンちゃんの犬慣れ&猫慣れに活躍してくれています!

石井が担当する「行動診療科」についてはこちらをご覧ください。

まずは「遊び」か「問題行動」かの見極めを

犬や猫が自分のしっぽを追いかけるのは「尾追い(おおい)」といって、基本的には遊びです。特に小さいうちは、よく自分のしっぽで遊んでいる様子が見られます。

しかし、「あまりにも頻度が高い」「しっぽを傷つけてしまう」など、尾追いの程度が遊びを超えてしまい、日常生活に支障をきたす「問題行動」になってしまうことがあります。

私の経験上、ネコちゃんよりもワンちゃんの方が尾追いについてのご相談が多いように思います。犬種としてはポメラニアンなどのスピッツ系や、柴犬が挙げられます。

以下のような症状が見られる場合は、病気に関連している可能性があるため、注意が必要です。

  • ふと見ると、いつもしっぽを追いかけている
  • 一度始めると、5分以上続ける
  • 夢中になって、飼い主さまが呼んだりおやつを見せたりしても反応しない
  • 舐めすぎてしっぽの毛が以前よりも薄くなった
  • 噛んだり引っ掻いたりしたことにより出血した
  • 皮膚が傷つき炎症を起こしている
  • しっぽに対して唸ったり鳴いたりする

これらが重症化すると、動物自身が怪我をして痛い思いをしても尾追いをやめられず、しっぽの一部が取れてしまうかもしれません。またその後、傷口から細菌やウイルスが入ると、敗血症などの感染症にかかったり、残されたしっぽが壊死したりするリスクも。

皮膚や神経など“病気のサイン”の場合も

動物がしっぽを追いかけるのを「しつけの問題」と考える方もいますが、必ずしもそうとは限りません。今回は代表的な4つの原因をご紹介します。

1つ目は「痛みやかゆみ」です。ワンちゃんが切り傷や皮膚炎でしっぽに違和感を持っている状態です。

2つ目は「関心を求める行動」。飼い主さまがワンちゃんの尾追いを止めるために名前を呼ぶと、ワンちゃんは「しっぽを追いかければ構ってもらえる」と、誤って学習してしまうことがあります。

3つ目は「常同障害」です。動物は不安や恐怖を感じた時、尾追いや手を舐めることで気持ちを落ち着けようとします。これを「常同行動」といいます。その頻度が高くなり、日常生活に支障が出てしまうと、常同障害という病気であると考えられます。常同障害は、ヒトの強迫性障害という病気に似ているといわれています。
常同障害を持つ動物は「ごはんやお散歩の前」「苦手な場所に行く際」など、興奮が高まる時にしっぽを追いかけることがあります。

4つ目は「神経疾患」。これは脳や脊髄に異常が認められる病気のことで、症状が出るといつもと違う行動をすることがあります。代表的な神経疾患である「てんかん」は、けいれんなどの症状で知られています。しかし、いつもはしっぽに興味を示さない子が、てんかんの症状で急にしっぽを追いかけることがあるのです。

神経疾患を持つ動物は、尾追いをするタイミングが不規則です。落ち着いて寝ていたのに突然起き上がってしっぽを追い始めることもあります。

複雑な原因を一つずつ取り除いていく

このように尾追いの原因は多岐にわたります。そして複数の原因が相互に関係しあっていることがあります。

例えば、ワンちゃんがしっぽの皮膚炎を気にして噛んでいるうちに、噛むこと自体がクセになって常同障害になることがあります。逆に常同行動でしっぽをなめ続けた結果、傷口から細菌が入って皮膚炎を起こすケースもあります。

複数の原因を一度で判別するのは、獣医師にとって大変難しいことです。そのため、考えられる原因一つひとつに対して治療していきます。

1. しっぽの皮膚の治療

しっぽに傷や炎症がある場合は、まず皮膚の治療を行います。抜け毛や湿疹の原因は虫刺されや切り傷などの外的な要因だけでなく、お散歩不足からくるストレスなど、精神的な要因であることも少なくありません。そのため、皮膚科と行動診療科の獣医師が連携して治療にあたります。

2. 行動修正指導

しっぽ自体には異常が見られないときや、皮膚の問題が改善しても尾追いが減らないときは、常同障害を疑って「しっぽを追う行動」の行動修正指導を行います。その目的は「しっぽを追う行動から意識をそらしてあげること」です。

尾追いをしようとしているときや、すでにしているときは、ワンちゃんの名前を呼んで「おすわり」や「お手」などをさせ、できたらおやつをあげます。こうすることで、ワンちゃんが「飼い主さんの言うことを聞いたらおやつがもらえる」と学習します。

飼い主さまに呼ばれてから「おすわり」や「お手」がスムーズにできるようになってきたら、次のステップに移ります。

きちんと言うことを聞けたごほうびとしておやつをあげる際、直接渡さずに「知育トイ」を与えるようにします。「知育トイ」とは、遊びながらおやつを食べられるおもちゃのことです。

上の写真をご覧ください。向かって左は、凸凹の隙間に入れたおやつを動物が手や鼻を使って食べるおもちゃです。中央のボールは、転がすことで中に入れたおやつが少しずつ出てくる仕組みになっています。右の布製のおもちゃは「ノーズワークマット」と呼ばれ、障害物の隙間におやつを隠すことで、目で追うのではなく、匂いで探し当てるおもちゃです。

知育トイは動物の知的好奇心を刺激して遊びたくなるようにつくられているので、ワンちゃんネコちゃんは集中して遊んでいるうちに、しっぽが気になっていたことを忘れてしまいます。

知育トイはふだんのごはんやおやつを食べる時に使っても◎

インターネット上には「尾追いしたらリードを引っ張って止める」というようなしつけ方を紹介しているサイトも見られます。しかし無理にワンちゃんの行動を止めようとすると強いストレスを与えてしまい、かえって尾追いの回数が増えたり、新たな問題行動が生じてしまうことも。

動物が楽しみながら行動のクセを変えられるよう、尾追い以外の遊びに集中できる環境を作ってあげるとよいでしょう。

3. 薬やサプリメントの活用

尾追いの背景に常同障害や神経疾患がある場合は、薬やサプリメントも活用していきます。

動物の常同障害に対して一般的に処方される薬は「抗うつ剤」です。常同障害の動物は気持ちを安定させる「セロトニン」と呼ばれる脳内物質が不足していることがあります。抗うつ剤にはセロトニンのバランスを整える効果があるため、常同障害の動物に効果があると考えられます。

飼い主さまが薬の使用に不安を感じる場合は、サプリメントを使用しながら行動修正指導をすることも可能です。薬を使用しない方法を、飼い主さまと一緒に考えて決めていただくこともできます。しかし、重度の症状がある場合は医薬の使用をおすすめしています。

4. 断尾手術

「断尾手術」とは動物のしっぽを短くする手術のことで、しっぽが大きく傷ついて壊死してしまう可能性があるときに行います。断尾を行うことで、傷口の化膿による感染症を防ぎ、全身を守ることができます。

しかし、常同障害が原因で尾追いをしているワンちゃんを断尾しても、尾の代わりに体の別の部位が気になって自傷してしまうことがあります。そのため、手術は問題行動の原因を慎重に見極めてから行うのが重要です。

動物の行動の悩みは、一人で抱え込まずに相談を

動物のしぐさが心配だと、飼い主さまも不安になり、ストレスを感じると思います。飼い主さまと動物がいっしょに楽しく過ごすためにも「なんだろう、この行動は?」と疑問に感じたら、早めに獣医師などの動物のことをよく知る人へ相談してください。

病院ではいつも通りの行動をしてくれない動物が多いため、飼い主さまには、ワンちゃんが日頃「いつ・何分間・どのように尾追いをしているのか」を記録していただくようお願いしています。特に気になる行動があればスマートフォンなどで録画しておくと、獣医師との認識の共有がスムーズになるでしょう。

行動に関する問題は「自分のしつけが原因かも」と思い、独力で解決しようとされる飼い主さまもいらっしゃいますが、原因は一つとは限らず、複数あることも考えられます。例えば当院にご相談いただいた場合、トレーニングか服薬、あるいはその両方により対処することもできます。治療方針は相談しながら取りまとめていけますので、お一人で悩まず、獣医師に相談していただければと思います。

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