動物もコロナ疲れ?獣医師&トレーナーに聞く「おうち時間の過ごし方」

新型コロナウイルス感染症の影響により、リモートワークを導入する企業が急増しました。人が自宅で過ごす時間が長くなったことで、愛犬・愛猫が「以前より甘えん坊になった」「トイレに失敗するようになった」など、行動の変化に気がついた飼い主さまも少なくないようです。そこで今回は、人と動物が健やかにコロナ禍を乗り切るために心がけたいことについて、相模原どうぶつ医療センター(神奈川県相模原市)で行動診療科を担当する獣医師・石井綾乃とドッグトレーナー・米田和輝に聞きました。

※新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、インタビューはオンラインで行いました。

石井綾乃 獣医師、博士(獣医学)

神奈川県横須賀市出身。日本大学生物資源科学部獣医学科卒業、日本獣医生命科学大学大学院博士課程修了。日本獣医動物行動研究会所属、どうぶつの総合病院行動診療科研修医。日本獣医生命科学大学大学院および理化学研究所脳科学総合研究センター神経老化制御研究チーム大学院生リサーチ・アソシエイトを経て、獣医学博士号を取得し、現職。

[愛犬&愛猫]
猫のなめろうくんは当院の猫を保護する活動「ねこむすび
のご縁で家族となりました。犬のさんがくんはブリーダーさんを直接訪問し、家族に迎えました。医療センターのしつけ教室では2頭とも患者さんであるワンちゃんの犬慣れ&猫慣れに活躍してくれています!

米田和輝

相模原どうぶつ医療センター しつけ担当 北海道出身。2002年国際ペットカルチャー総合学院卒業。専門学校講師、嘱託警察犬指導手を経て、14年より現職。現在はラブラドール・レトリバー(3代目)の育児に奮闘中。 《保有資格》 日本ドッグトレーナー協会A級ライセンス/ジャパンケネルクラブ公認訓練士/愛玩動物飼養管理士/RPTM Japan Bronze Basic Level Trainee

いつもと違う行動は「不安のサイン」かも?

——  新型コロナウイルスの流行がもたらした暮らしの変化は、人と暮らす動物たちにも影響を及ぼしているのでしょうか。  

石井 飼い主さまの暮らしが変化したことで、動物がストレスを感じている可能性があります。ストレスは一時的な消化器疾患やアレルギー、または問題行動のきっかけになる場合もあるので注意が必要です。実際に私が診療を担当しているワンちゃんでも、コロナ禍の影響を受けて攻撃性が増したと思われる子がいますし、新たに分離不安の傾向が見られるようになった動物についての相談も受けています。

米田 飼い主さまと一緒にいられる時間が増えたことについて、動物たちは喜んでいると思います。しかし、うれしい出来事も含めた変化自体が、動物にとってストレスになりうるのです。動物は飼い主さまの気持ちに敏感なので、お疲れやイライラを察して不安な気持ちになっているかもしれません。一度定着した問題行動を治すのは大変なことが多いですから、そうならないようにしてあげたいですよね。

——  動物が過度なストレスを感じていないか、自宅で確認する方法は?

石井 まずは普段と異なる行動やしぐさがないか、しっかり観察するのが大切です。一例ですが、以下のような行動は不安な気持ちの表れだといわれます。

  • 舌を出して呼吸する
  • よだれが出る
  • 吠える
  • 隠れる
  • トイレ以外で排泄する
  • あくびをする
  • 飼い主を追いかける
  • 物を壊す
  • 口をもぐもぐさせる
  • 床を掘る
  • いつもより毛づくろいをする
  • 自分を傷つける(しっぽを追い続ける、手先を過剰に舐める、など)

米田 「舌を出して呼吸する」や「あくび」は動物がよくするしぐさなので“不安のサイン”と知って意外に思われる方が多いかもしれません。いつも通り行っているなら問題ないのですが、不自然なタイミングで見られる場合には注意が必要です。

石井 飼い主さまが家にいる時間が増えたことで、様々なペットの行動が気になるようになった方も多いようです。吠えるなどの行動が見られたからといって、頭ごなしに叱るのは厳禁。気になる仕草があれば、どんなタイミングで行っているのかを観察してください。そして明らかに最近起きた変化であれば、生じたストレスを減らし、発散させてあげることが大切です。

散歩や知育トイの活用でストレス解消を

——  コロナ禍において、飼い主さまがお感じになっている困りごとで、お二人が気になった意見は?

石井 例えば「散歩の回数を減らしたり距離を短くしたことで、ストレスを感じている」というお悩みがありました。中型犬や大型犬は運動量が少ないと特にストレスを感じやすいので、苦労されていると思います。

米田 家の中とは違う風景に出会ったり匂いをかいだりするのも、犬にとって大切な刺激なんです。散歩は単なる運動以上の意味を持っているので、ワンちゃんたちもつらいと思います。

——  お二人は、飼い主として散歩はどうされていますか? 

石井 「マスクの着用」「ソーシャルディスタンスを保つ」などの対策をした上で、普段通りしています。休日に通っていた遠方の広い公園では遊べなくなってしまったので、なるべく同じ運動量を確保出来るよう、近所の森林などにルートを変えるなどの工夫をしています。

米田 私も感染拡大防止の対策をした上で、普段通りの散歩を続けていますよ。

石井 様々な理由から散歩を控えている方がいらっしゃるかと思いますが、犬の散歩は健康管理上欠かせないもので、「不要不急の外出」には含まれないと考えてもよいと思います。

——  外に出られない日にも出来る運動法を教えてください。  

石井 ごはんやおやつをあげる際に「ノーズワークマット」などの知育トイを活用するのも一つの手です。もっと簡単に、清潔なマットの上に餌をばら撒いて食べさせるだけでもいいですし。お皿から直接食べるより運動量が増えて、嗅覚を使った遊びにもなります。

隠してあるおやつを匂いで探し当てるノーズワークマットなどの知育トイは、梅雨時の運動不足対策にも適している

米田 椅子の下におやつを置いて目隠しをかけ、においで探すトレーニングなどもあります。同じ遊びばかりだと犬も飽きてしまいますから、いろいろな工夫をしてあげてください。

動物も正しい生活リズムで休息時間を確保

——  他に気になった「困りごと」は?

米田 「家に居る時間が多くなり、動物の生活リズムが狂っているような気がする」ということは、多くの方が感じているのではないでしょうか。

石井 ワンちゃんやネコちゃんはお留守番の間、休んでいることが多いのですが、遊んでくれる人がいれば起きている時間が長くなります。また、深夜まで家で活動している人がいると、音や光の影響で睡眠の質が悪くなるといわれています。こうしてきちんと休息を取れないと、疲れがたまってしまうかもしれません。

米田 「家にいる人がいつもより多い」というのも、動物にとってはストレスになると思います。例えば、いつもなら平日の昼間はお母さんとゆっくり過ごしているのに、子どもが遊びたがるとか、お父さんが声をかけるとか。

石井 出来るだけ普段通りの生活を送らせてあげるために、家族内でルールを設け、構う時間と構わない時間のメリハリをつけると良いと思います。せっかく家にいるからとワンちゃんをずっと抱っこして過ごすと、ワンちゃんが一人で過ごすことを不安に感じるようになってしまい、以前は大丈夫だったのに留守番が苦手になってしまうこともあります。飼い主さまが家にいる日でも、ワンちゃんにケージや別室で過ごさせる時間を設けると良いと思います。深夜同じ部屋にいる場合は、テレビを消したりして音の刺激を減らすほか、寝床に布をかけて暗くしてあげましょう。

——  飼い主さまと散歩に行かないネコは影響を受けないのでしょうか。 

石井 ワンちゃんほどには、ストレスを感じていないかもしれません。しかしネコちゃんも社会性のある動物なので、遊んであげないと構ってほしくていたずらをしてしまう子もいます。神経質になる必要はありませんが、体調の変化は気遣ってほしいです。

しつけのチャンス「生後3か月まで」を逃さないために

——  米田さんは院内で子犬のしつけ教室をされていますが、参加を断念された飼い主さまもいらっしゃるとか。

米田 いつもは40頭ほどお預かりしているのですが、コロナ禍で一時は半分ほどに減りました。生後3か月までは様々な刺激に慣れやすい大切な時期なので、本来であれば外を歩いていろんな音を聞いたり、いろんな人や犬に出会ったりするべきなのですが。

石井 

実は多くの問題行動の原因の一つに「社会化不足」が関係しています。社会化期の子犬は、好奇心旺盛で新しい刺激や環境に比較的柔軟に慣れることができます。ですので、この時期に人間社会で暮らすために必要なルールをワンちゃんに教えてあげる必要があります。さらに、しつけの仕方も重要です。しつけの仕方も新しく進歩をし続けています。飼い主さまには、当院に限らず、科学的かつ新しい情報を取り入れているしつけ教室に相談することをおすすめします。

——  子犬を迎えたばかりの方が、自宅で行えるしつけはありますか? 

米田 外に出してあげられなくても、過ごしやすい気温の日は窓を開けておくのをおすすめします。外から聞こえてくる車の音や、知らない人の声に慣れるきっかけになるでしょう。また、YouTubeなどでフリーの音源を探して、犬の鳴き声や雷の音など、ワンちゃんが苦手そうな音を反応するかどうかくらいの小さな音量で聞かせてあげ、その際におやつを与えるなどして良いことがあると思わせてください。徐々に警戒心が薄れていき、音がしても不安になりにくい犬に育ちやすいです。

石井 ただ音などの刺激に暴露して慣らす方法を順化と言います。また、大きな音という嫌な刺激と同時に、美味しいごほうびという良い刺激を与える方法(拮抗条件づけ)も効果的です。音などの刺激を気にせずいられたら、忘れずに褒めてあげてくださいね!

——  すでに3か月を過ぎている子や、成犬の場合は?

米田 年齢を重ねると好奇心より警戒心が強くなるので、音のトレーニングは小さめの音量で始めるとよいと思います。吠えずに我慢出来たら、しっかり褒めてごほうびをあげるのを忘れずに。

石井 小さな音から始めて、「このぐらいの大きさの音には大丈夫」という経験を積ませてあげて、だんだんと音を大きくして慣らしていく方法を「系統的脱感作法」といいます。コツは小さなステップをゆっくり登るように練習していくことです。急に大きな音に暴露する方法は洪水法と言いますが、トラウマになりかねないので、気をつけてくださいね。

「新しい生活様式」に向け、いまから対策を

——  新型コロナが収束していったとして、通常の生活へ移行する期間に懸念されることは?

米田 私が最も心配なのは、自粛期間で飼い主さまへの愛着が強くなった動物は、お留守番が難しくなってしまうのではないかということです。過度な愛着を防ぐ意味でも、おうちにいる間もメリハリをつけて触れ合うべきかと。

石井 普通に出社できるようになると、以前より残業が増える方も少なくないと思います。飼い主さまも余裕を持ちづらいかとは思いますが、1日1回はおもいきり遊んであげる、週に1度はドッグランに行くなど、意識して動物との時間を設けてほしいです。

——  飼い主さまにメッセージを。

米田 動物もおやつの貰いすぎで「自粛太り」した子が多いと聞きます。もしおやつをあげるなら、トレーニングのごほうびとしてあげてみては。「待て」や「ケージに入る」など、苦手なことがあるワンちゃんは、この機会に練習するとよいのではないでしょうか。ワンちゃんの性格に合ったしつけ方もご紹介できますので、ぜひお気軽にご相談ください。

石井 飼い主さまがきちんとおうちでのケアに取り組まれても、ワンちゃんの性格や環境によって、飼い主さまが戸惑う行動を続けてしまう場合があります。行動の管理だけでなく、服薬やサプリメントのご提案も可能ですので、一人で抱え込まず、飼い主さまの身近にいる動物の行動やしつけをよく知る方にご相談ください。

センター内から取材に応じる米田(左)と石井。

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