愛犬・愛猫が「人が出かける時に吠える」「留守番中に問題行動」…原因は「分離不安」かも?

「出かけようとすると強く吠え続ける」「留守中に限ってやんちゃをする」「家に帰るとけがをしていることが多い」…そんな動物は「分離不安」があるかもしれません。近年、注目されているこの状態について、相模原どうぶつ医療センター(神奈川県相模原市)で行動診療科を担当する獣医師・石井綾乃がご説明します。

石井綾乃 獣医師、博士(獣医学)

神奈川県横須賀市出身。日本大学生物資源科学部獣医学科卒業、日本獣医生命科学大学大学院博士課程修了。日本獣医動物行動研究会所属、どうぶつの総合病院行動診療科研修医。日本獣医生命科学大学大学院および理化学研究所脳科学総合研究センター神経老化制御研究チーム大学院生リサーチ・アソシエイトを経て、獣医学博士号を取得し、現職。

[愛犬&愛猫]
猫のなめろうくんは当院の猫を保護する活動「ねこむすび
のご縁で家族となりました。犬のさんがくんはブリーダーさんを直接訪問し、家族に迎えました。医療センターのしつけ教室では2頭とも患者さんであるワンちゃんの犬慣れ&猫慣れに活躍してくれています!

石井が担当する「行動診療科」についてはこちらをご覧ください。

見極めのポイント

今回ご説明する「分離不安」は、“動物が飼い主さまと離れることで感じる不安”のことです。 特定の人物と離れることに不安を示す場合もあれば、人が誰もいなくなったときに不安になる場合もあります。一緒に過ごす時間が長い人が限られていると前者のようになりやすいので、ご家族全員が動物と関わるのも対策の一つでしょう。 私の経験上、この不安を感じる子は、ネコちゃんよりもワンちゃんに多いように思います。

不安の表れ方は様々ですが、代表的なものとして以下の行動が挙げられます。

  • お出かけの準備を始めただけでソワソワする
  • 家を出ようとすると鳴き始め、飼い主がドアの外に出ても鳴き止まない
  • 自分の尻尾や手足を噛む
  • 無理やりケージから出ようとする
  • 外に出られそうな場所(窓やドアなど)に近づいたり、その周辺を壊したりする

このような行動を、飼い主さまの外出時に繰り返し行っているようであれば、分離不安が疑われます。「繰り返し」というのが重要で、一度きりであれば「近所の工事などで大きな音がしたせい」といった可能性もあります。

しかし、そうはいっても「問題行動の多くが飼い主さまの目が届かないところで起きる」という性質上、繰り返しているのかどうかを確かめるのは非常に難しいのです。

帰宅後に動物がケガをしていたり、ケージや家具が壊れたりしていることが多ければ、スマートフォンなどで留守中の様子を録画することをおすすめします。

また、分離不安を感じている動物は、普段から飼い主さまへの依存心が強く、お手洗いやお風呂にまで付いてくることが少なくありません。

「どこに行くにも一緒」というのはとても可愛く思われるでしょうが、実は「一瞬でも離れるのは怖い」という気持ちの表れかもしれず、分離不安かどうかを判断する材料の一つになります。

「脳内物質」「経験」「認知機能」が3大要素

分離不安と関係がある主な要素として、次の3つを挙げることができます。

1つ目は「脳内物質」です。気持ちの安定と関係がある「セロトニン」と呼ばれる脳内物質があるのですが、この物質の分泌の少ない子が一定数存在します。こうした動物たちは、少しの不安にも過剰に反応してしまうので、分離不安を感じやすくなるというわけです。

2つ目は「経験」。お留守番に慣れていない子は、人がいない場面が苦手です。小さい頃から「ケージに入ったまま、鳴かずに待つトレーニング」をすると良いでしょう。このトレーニングは成犬に行うこともできます。

3つ目は「認知機能」です。加齢により認知機能が低下することで、飼い主さまと離れると動物が問題行動を起こす可能性があります。ワンちゃんにもよりますが、変化が表れるのはおよそ8歳以降です。

大切なのは「不安のピークの抑制」

動物の不安な気持ちを軽減するにはまず、「分離不安の動物の気持ちがどのように変化しているのか」ということを考えなければなりません。 不安や興奮の感じ方はその子によって異なりますが、分離不安がある動物は「飼い主さまが外出の準備を始めると不安になり始め、それが徐々に高まっていき、離れる瞬間にピークに達する」といわれます。下図はそれをイメージとして分かりやすく表したものです。

「お別れする瞬間に一番不安や興奮が高まる」と予想されるので、家を出る前に対策をとることが重要になります。

相模原どうぶつ医療センター(以下、当センター)の行動診療科では、まず飼い主さまと動物の普段の暮らしぶりについてお聞きしています。そして、生活習慣や行動など、さまざまな方法について飼い主さまと一緒に考えていきます。

日常生活についてお聞きするのは、「遊び」や「慣れ」によって不安な感情を与えないような工夫をお伝えするため。ご家庭でもすぐに実践できる5つの方法をご紹介するので、分離不安に悩んでいる方はぜひ試してみてください

1. 知育トイで気をそらす

お出かけの準備を始めるときや、お手洗いやお風呂で席を立つときなどに「知育トイ」を与えることで、不安の感じ方を和らげられる可能性があります。「知育トイ」とは、噛んだり転がしたりするとおやつがでてくるおもちゃのことです。

遊びに集中してもらうことで、飼い主さまの行動から気をそらすことができます。自分だけで遊ぶ経験を通じて、「人がいなくなっていても大丈夫だ」と認識できるようになるでしょう。

知育トイは、トイレットペーパーの芯で簡易的なものを自作することもできます。作り方は簡単で、空洞に小粒のおやつを入れ、両端を軽く折り曲げるだけ。

その子の性格によって、興味を抱くおもちゃや、興味を保ち続けられる時間は違います。「転がすのは難しいかな」と思ったら舐めるだけのおもちゃを与えるなど、遊びのレベルを調整してあげてください。

2. ルーティンをずらす

犬や猫は非常に頭がいいので「飼い主さまが出かける前にする行動」を覚えています。そして、その行動をとっただけで、分離不安の動物は非常に気になってしまうのです。逆にいえば、お出かけ前の決まった行動をとらなければ、落ち着いて過ごせる可能性があるということです。

例えば、日常的な飼い主さまの行動から「カバンを持つのが出かける合図だ」と動物が学習しているなら、身支度を始める前にカバンを玄関に置くなど、外出前に行うルーティンの順序を変えるのもよいでしょう。

また、出かける前に「行ってくるね」「いい子にしてるんだよ」と声をかけたりなでたりするのも興奮の原因になるので、避けた方が良いとされています。不安時と興奮時の脳の働きは非常に似ているので、できるだけ何もせずに外へ出てください。

3. 「待て」の練習をする

自分だけになっても落ち着いて過ごせるようにするには、「待て」の練習も役に立ちます。おやつやボールなどのご褒美に飛びつきたい気持ちをこらえる経験をすることで、我慢を学ぶことができるのです。

4. お留守番のトレーニングをする

お留守番に慣れるためには、まず短い時間から練習してみるのも大切です。飼い主さまが家から出て10秒間、ワンちゃんがおもちゃなどで遊んでいて大丈夫そうだったら、次は20秒、1分、5分、30分と徐々に伸ばしていってください。こうすることで、少しずつ「人がいなくなっても大丈夫」という認識が芽生えます。

5. 普段の行動を少し工夫する

他にも「お家の中でそばにいない時間をつくる」「だっこするときに一度おすわりをさせる」など、動物との距離にメリハリをつける方法がいくつかあります。様々なトレーニングを行うことで、「常に一緒にいないと不安」という気持ちを軽減することができるでしょう。

一緒にいない時こそ安心できるように

多くの方が悩まれている「分離不安」ですが、しつけによって未然に防げる可能性があります。動物と飼い主さまの関係性によるところが大きいため、トレーニングが大切なのです。

飼い主さまに心がけていただきたいのは「動物とは常に一定の距離を保って生活すること」です。私自身も一飼い主として「いつも彼らの近くにいたい」という気持ちはとてもよく分かります。

しかし、ほとんどのご家庭で「動物と常に一緒にいる」ということは不可能でしょう。一緒にいないときでも動物が安心して過ごせることは、動物を飼う上で非常に重要です。

動物との暮らしで分からないことがあれば、獣医師にもどうぞご相談ください。

撮影に協力してくれた、なめろうくん(猫)とさんがくん(犬)はとっても仲良し!

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