相模原どうぶつ医療センターBlog

近年は増加傾向!?愛する猫の腎機能を脅かす「尿路結石」にご注意を。

猫が患いやすい病気の一つとして知られる「尿路結石」。初期症状が気付かれにくい病気ですが、放置すると腎不全をはじめとする重篤な合併症を引き起こす危険があるのだとか。この記事では猫の尿路結石のリスクや早期に発見するためのポイント、治療法などについて、外科を専門とする獣医師・山口恭寛が解説します。

山口恭寛(相模原どうぶつ医療センター 総合診療科〈軟部外科〉担当/副センター長)

2005年に麻布大学獣医学部獣医学科を卒業(獣医師免許取得)後、ペットクリニックアニホスで一般診療を担当。09年より横浜夜間動物病院(現 DVMsどうぶつ医療センター横浜)で夜間救急、ー横浜救急診療センター/二次診療センター総合診療科の兼務、二次診療センター総合診療科(軟部外科)副医長などを歴任。17年より現職。
公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)認定総合臨床医。「GPCert(SAS) ESVPS」General Practitioner Certificate in Small Animal Surgery : European School of Veterinary Postgraduate Studies.

 

腎不全につながる「尿路結石」 定期的な健診で早期発見を

尿路結石とは、腎臓でできた「結石」が腎臓や尿管、膀胱、尿道を傷付けたり、組織のどこかに詰まったりする病気で、様々な健康被害を引き起こします。

結石の主成分は「シュウ酸カルシウム」という物質であることが多く、何らかの代謝異常が原因だと考えられているのですが、実は詳しいことはまだ分かっていないんです。また、年齢による罹患率に差もありませんので、「いつでも、どんな子でも」かかり得る疾患だといえるでしょう。

さらに、こちらも理由は分かってないのですが、近年は尿路結石を患うネコちゃんが増えてきているんです。スコティッシュフォールドやマンチカンのような「アメリカン・ショートヘアの血が入っている猫種にできやすい」という報告もあるため、該当するネコちゃんの飼い主さまは特に気を付けてください。

※麻布大学付属動物病院における猫の尿管結石の後発品種に関する検討: 高柳明子他 日獣会誌 68. 761~764(2015)

この病気には「尿路のどこに結石があるか」によって見られる症状が違うという性質もあります。

腎臓にある間は、ほとんど症状が表れません。この段階で気付くのは非常に難しいですし、結石がよほど大きい場合や、腎盂腎炎など感染の温床となっているケース以外で治療を行うことはまずありません。

その後、腎臓から尿管に結石が流れ込むと「尿管結石」という診断が下されます。人間がこの病気にかかると飛び上がるくらいの痛みがあるのですが、猫の場合は強い痛みが出ないことも多いんです。それでも、「なんとなく元気がなくなる」「ひきこもりがちになる」というような、他の病気でも見られるような症状が出ることはあるでしょう。

閉塞する尿管結石と尿管拡張(左)、それに伴って生じる腎盂拡張(水腎症)のエコー画像

症状として「血尿」をイメージする方もいると思いますが、必ずしも尿に血が混じるとは限らないんです。仮に尿と一緒に血が出たとしても、赤色であることはほとんどありません。多くは薄い茶色で、「少し尿の色が違うかな」という程度の変化ですので、よほど注意深く観察していなければ見落としてしまうでしょう。

結石が尿管を経て尿道で詰まると、排尿することができなくなるなど、異変が分かるような症状が出ることが多くなります。

尿管・膀胱・尿道のどこで結石が詰まったとしても、放置するとやがて「腎不全」に陥ってしまいます。普段から「おしっこの回数や色をチェックする」「定期的に健診を受ける」などして、できるだけ早めに結石を発見してあげることが大切だと思います。

 

感染症などのリスクが伴う手術ポイントは「自前の組織の活用」

尿路結石の中でも「尿管結石」に関しては手術をすることが多く、相模原どうぶつ医療センター(以下、当センター)でも2018〜19年の2年だけで27件の手術を実施しているのですが、そうした際に大切なのは、事前に「本当に手術をする必要があるのかどうか」を正しく判断することです。

例えば、尿管結石が長期にわたって放置され、そちら側の腎臓の機能が完全に喪失している場合、結石を取り除いたとしても、腎臓の機能は回復しません。それなら開腹手術をするより、もう片方の腎臓の機能を維持することに注力した方がよいでしょう。この判断を正確に下すには、診断機器や獣医師の経験が求められるので、病院選びも重要になってきます。

当センターでは、通常の画像検査では腎機能が残存しているのか分からない場合に「腎ろう手術」を行います。腎臓に直接カテーテルを付けて、尿管を介さずに尿を体外に排出させることで1時間当たりの尿量や、尿素窒素値(血液中の尿素に含まれる窒素成分の数値)をモニタリングして腎機能などを評価し、手術すべきかどうかを判断するわけです。

腎ろう手術を行った猫

手術すると決まった場合、当センターでは主に「尿管膀胱新吻合手術」というものを行います。これは結石が詰まっている箇所よりも腎臓側で尿管を切り、膀胱につなぎ直すもの。自前の臓器のみを用いる治療法なので、尿管切開・吻合手術後に生じることがある尿管の狭窄を回避できることもメリットです。

しかし、この尿管膀胱新吻合手術は高度な手術になるので、全国どこの病院でも採用しているわけではありません。人工デバイスを用いた「尿管ステント手術」や「皮下尿管バイパス(以下、SUB)システム」を行っている病院も多くあるでしょう。

尿管ステント手術では尿管にカテーテルを入れて管内におしっこの通り道をつくります。

使用前の尿管ステント(左)と変質して閉塞したもの(右)。周囲に付着する結晶はシュウ酸カルシウム

ただ尿管は非常に細いので、カテーテルを入れたとしても、時間が経つにつれて再び尿の流れが悪くなるケースも少なくありません。また人工物を体内に挿れるため、ばい菌の温床になったり、物理的な刺激が炎症の原因になる可能性もあります。

一方、尿管を使うことを諦め、腎臓と膀胱をSUBというカテーテルでつなぎ、尿管の代わりとなる尿路をつくるのがSUBシステムです。

猫・小型犬用の「SUB」=皮下尿管バイパスデバイス(左)と設置直後のレントゲン画像(右)

これには、尿管の状況に関わらず手術を行えるというメリットがあるのですが、やはりばい菌の温床となるリスクは避けられません。「術後、尿路感染症にかかる確率は25%程度」と指摘する調査もあります。

通常、尿管は蠕動運動により尿を膀胱に送っていますが、SUBではこれができません。するとカテーテル内に尿が滞留し、腎臓に過度な負担がかかることも考えられます。

以上のことから、尿管膀胱新吻合手術を第一候補とし、「閉塞部分があまりに腎臓に近いため、尿管を切り取る余裕がない」など、特殊な場合は人工デバイスを用いた手術を選択するというのが適切だと思います。

ただし、尿管膀胱新吻合手術にもデメリットはあります。吻合部分がうまく引っ付かなくて再手術が必要になるケースや、尿管が収縮して閉塞してしまう危険性も。ネコちゃんが手術するとなったら、担当医としっかり話し合い、納得できる治療を行なってもらってください。

 

再発頻度の高さも特徴の一つ 手術は信頼できる医療機関で

手術を行えばたいてい症状は改善しますが、ぜひ知っておいてほしいのは「尿路結石は再発しやすい」ということです。「手術を行なった子の半数以上が再び尿路結石を患った」という統計データもありますし、私の経験からも予後はあまりよくない疾患だといえます。

当センターでは手術直後に尿量や血液の検査、腹部エコーなどを実施し、退院後は1か月に1回程度の定期的な画像診断や血液検査などを推奨しています。飼い主さまも「治療したから大丈夫」と安心することなく、経過を注意深く観察していただきたいと思います。

気付きにくく、再発しやすい尿路結石は両腎の機能不全を引き起こす可能性があります。そうなると透析を施すほかないのですが、人間のようにうまくはいくとは限りません。

これまで、何回も尿路結石を患った結果、左右両方の腎臓が機能しなくなり、治療の甲斐なく亡くなるネコちゃんをたくさん見てきました。そうならないためにもぜひ、検査や治療を安心して任せられる病院を見つけてあげてください。

病院選びのポイントの一つは、検査の際に「画像診断まで行なってくれるかどうか」。血液検査の場合、片方の腎臓の機能が低下していても、もう片方が正常なら、数値に異常が表れないことも多々あります。それを理解した上で、画像診断まで行なってくれる医療機関なら、おそらくよい治療を提供してくれることでしょう。

また、手術をするとなったら、その前後には尿量の確認等をするために、どうしても「チームワークとマンパワー」が必要になります。ある程度、規模の大きい病院か、そちらへ紹介してくれるような地域の医療機関にかかることをおすすめします。

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