「犬と猫、地域の皆さまのために更なる進化を」2020年新春 椿直哉センター長インタビュー

新年明けましておめでとうございます。さて、オリンピックとパラリンピックに日本中が大いに沸くであろう2020年は、相模原どうぶつ医療センターにとって「5周年」のアニバーサリー・イヤー。12の診療科と60名余りのスタッフを擁するこの動物医療機関では、節目の年にどんなことに取り組み、どんな未来へ向かおうとしているのでしょうか。椿直哉センター長に聞きました。

椿直哉センター長(獣医師)

神奈川生まれの東京育ち。2004年北里大学獣医学科卒業。一般開業動物病院勤務医、日本動物高度医療センター総合診療科勤務医、東京農工大研修医等を経て、2010年より現職。趣味は「猫と遊ぶこと」。MBA経営学修士。

 

―― まず、昨年までの取り組みについてお聞かせください。

具体的な獣医療の話でいうと、2019年は前年に導入した眼科の手術用顕微鏡を活用して、月に10件以上の手術と100件以上の診察を行いました。いずれも白内障を患ったり、角膜に傷を負ったりした動物を対象とするもので、件数は着実に増加しています。

目の手術は大学病院などでも受けることができるのですが、受診しても「◯週間待ち」と言われることが少なくありません。その点、当センターには眼科専門医がいるため、不在の日でない限り、それほどお待たせすることなく診察して、緊急手術を行うこともできるのです。

また、腹腔鏡手術を行うための専用の設備を使用した手術の件数も増加しています。こちらも一昨年に導入したものですが、獣医内視鏡外科の権威である江原郁也先生をお招きしてご指導いただき、手術を行っています。機器自体、全国的にも導入例の少ない価値あるものですが、高度な知識と経験を備えた方のご指導を仰ぎ、確かな技術を提供していることにこそ、大きな意味があると考えています。

対応する疾患としては、避妊手術や膀胱結石、乳び胸(にゅうびきょう:胸の中に液体が溜まってしまう病気)などです。小さな術創を数個開けるだけで行えるので、通常の手術に比べて体への負担が格段に小さく、より早い回復が期待できます。また、高精細なカメラを挿入して大画面で確認しながら行うので、術野を広く確保することができ、周辺の臓器も確実に目視することができます。

以前なら術後1週間は入院していたケースでも、腹腔鏡手術なら最短で手術の翌日にはピンピンして帰れるほどの回復が期待できるんです。「術創が小さい」という見た目だけではなく、動物にとって本当に優しい手術なのだと、一例一例、私達も体感しています。

―― スタッフさんも増えたようですが。

19年に新たに加わったスタッフは、獣医師が中途採用で1名、新卒で3名、動物看護師2名、事務受付スタッフ2名の計8名です。当センターで提供する獣医療はもちろん、「ねこむすび」(保護猫の譲渡活動)をはじめとする取り組みに共感して、配属を希望してくれた人もいます。志のあるスタッフが入って来てくれるのはすごく嬉しいですね。

昨年末には総合診療科外科を担当する副センター長の山口恭寛獣医師が、ESVPS(European School of Veterinary Postgraduate Studies)公認世界標準の認定試験であるGPCert(General Practitioner Certification)の小動物外科(Small Animal Surgery)を取得しました。これは海外でも広く知られた認定試験で、取得まではかなり険しい道だったようです。彼のようなベテランが向上心を持って挑戦し続けていることは、周りのスタッフにとってもいい刺激になると思いますし、当然ながら、よりよい獣医療の提供につながるはずです。

―― 昨年は「自動受付システム」を導入されたそうですね。

これにより飼い主さまは、カルテ番号と紐づくQRコードの印刷された診察券を端末にかざすだけで、受付が完了するようになりました。

自動受付システムの端末に診察券をかざすだけで受付が完了。

 

以前は受付のために並んでいただくこともあったんですが、このシステムの導入以降は「受付待ち」がなくなっていますし、受付スタッフに来院の理由などを告げる必要がなくなりました。また、受付スタッフが会計の業務に注力できるようになったことで、「会計待ち」の時間も短縮できています。

加えて、これまでは完全予約制だったのを、昨秋からは順番待ち制に切り替えました(専門医療を提供する山口獣医師〈総合診療科外科〉と瀬川和仁獣医師〈総合診療科内科〉、寺門邦彦獣医師〈眼科〉は今後も予約制)。時代に逆行するように思われるかもしれませんが、これによって時間のロスがなくなり、より早く診察室へお通しできるようになっています。

―― 現在は大規模な改装を行なっているようですが、その目的は?

工事が完了すると、ロビーに受付状況を表示するモニターが設置されるため、ご自身が何番目かひと目で分かるようになります。

また、現在2つある手術室を4つに増やし、手術件数が増加している眼科と腹腔鏡、それぞれの専門の手術室を設けます。従来は1つの手術室で毎日、何件もの手術を行う必要があり、1日に6〜7件の手術が入った場合、後の方の手術は夜中に実施せざるを得ない、ということがありました。手術室を増やせばその混雑が緩和できますので、早い時間に手術を行うことができ、緊急手術への対応もしやすくなります。

それに入院室が27床から38床に、ICUは3床から8床に増えるため、酸素吸入や集中管理を必要とする患者さまを受け入れやすくなります。夜間救急など、ベッドが足りずにやむなく他院を紹介することが少なくなかったのですが、そうしたケースを減らすことにもつながるでしょう。

―― このブログでの情報発信も、昨年から始まった取り組みの一つですよね。

当センターは建物の大きさや「医療センター」という仰々しい名称のせいか、かねて「どんな場合に利用したらいいか分かりにくい」「敷居が高いように感じる」という飼い主さまの声が寄せられていました。私たちとしては、もっと気軽にご利用いただきたいし、地域で担おうと考えている役割などについても内外に情報発信していきたいという思いがあり、そのための手段の一つとしてブログをスタートさせたわけです。

スタッフの中には一見、強面というかクールに見える者もいますが、実は皆それぞれに熱い想いを持って、日々の仕事に取り組んでいます。そうした各人の人柄についても発信していければ、例えば愛するワンちゃんやネコちゃんが手術を受けることなったとき、スマホなどで担当獣医師について検索して「あ、こんな人か」と知ることができて、少しでも安心していただけるのではないかと期待しています。

―― では、2020年の抱負をお聞かせください。

今年は「医療センター」としてオープンしてから5周年の節目の年ですから、地域に貢献する動物医療機関として、大きな進化を遂げたいですね。そのために「内部の充実」と「外部との関係構築」という2つのことに注力しようと考えています。

「内部」については、先ほどお話しした改装やスタッフの増員、それに研修などの機会を増やすことによって、ご提供できる医療の量と質の両面におけるパワーアップを図ります。

一方で「外部」については、地域の愛犬家・愛猫家の皆さま、それに近隣の他院の先生方と一緒に取り組める活動を企画し、一層の協力関係を築いていきたいと思っています。例えば最近、相模原市獣医師会の一員として行政の方々と話していると「災害時の避難」のことがよく話題に上るのです。

昨年も日本各地で様々な災害が発生しましたが、この地域が被災した場合を考えると「飼い主さまが動物と一緒に避難するにはどうすればよいか」「ケガを負った動物は誰が治療するのか」など、多くの課題が浮かび上がります。そうしたことについては、個人や個々の動物病院だけでなく、地域の力を合わせて対処することが欠かせないと思うのです。

それと、子どもたちの教育にはこれからも積極的に貢献していきたいですね。これらの活動はAAE(Animal Assisted Education)といいますが、当センターではこれまでも小学生を対象にした「お医者さん体験」や中学生向けの「職場体験」を提供してきました。子どもたちが言葉を話せない動物たちと身近に接することは、相手の立場や気持ちについて考え、共感性を育むきっかけにはなるはずです。

私は常々「ペット産業は平和産業であり、ペット産業の衰退は平和の後退を意味する」と考えていますが、地域の子どもたちに動物との接点を提供することも“平和づくり”の第一歩なんじゃないかと。大げさかもしれませんが、そう思うんです。

―― 読者の皆さんへのメッセージを。

当センターはまだまだ進化の途上にあります。もちろん、動物病院としての基本的な機能は備えているという自負はありますが、これからは“それ以上のもの”をご提供していきたいのです。

今年は東京オリンピック・パラリンピックが行われ、5Gの普及が予想されていますが、それらに合わせて、いろんなモノやコトが劇的に変わってくるでしょう。私たちも現状に満足して立ち止まることなく、新たな情報やサービスを活用して、皆さんにご提案していきたいと思っています。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

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