相模原どうぶつ医療センターBlog

動物病院が取り組む保護猫の譲渡活動「ねこむすび」。その中身と課題、見据える未来とは。


神奈川県相模原市にある相模原どうぶつ医療センター(以下、センター)では、いま「ねこむすび」という“保護猫譲渡活動”に取り組んでいます。その理由や現状における成果と課題、今後のビジョンなどについて、活動を中心メンバーとして支える5名のスタッフに聞きました。

(左から)石井綾乃(獣医師)、 徳永佳菜子(獣医師)、蓮見真由子(獣医師)、大野晃希(動物看護師)、二平真歩(動物看護師)



―― まず「ねこむすび」という制度の概要を教えてください。

二平 交通事故で怪我をしたり、元気がなくて路上で保護されたりして当センターに連れてこられた飼い主のいないネコちゃんを、希望される方に譲渡して、里親になっていただく制度です。1年ほど前にスタートしました。

―― なぜ動物病院であるこのセンターで保護猫の譲渡活動を?

徳永 当センターでは以前から、保健所などから依頼されて、保護された猫の治療を行うことがあったんです。回復した猫は本来なら保健所に戻っていくのですが、私たちは「保護された猫たちが家族を持つところまでサポートしたい」という考えから「ねこむすび」を始めました。

大野 椿先生(センター長)から「病院主体の里親制度を立ち上げようかと思うんだけど」という話があった際、運営メンバーとして立候補したのがここにいるスタッフなんですが、日頃の世話についてはセンターの全スタッフで行っています。

―― 皆さんはそれぞれ、なぜ立候補されたのですか?

蓮見 私は今年(2019年)4月に入社したばかりなのですが、猫の愛護活動には学生時代から携わっていました。就職活動中にこのセンターへ見学実習に来た際、センター長から「保護猫と里親のマッチングに取り組んでいる」というお話を聞いて、すごくいい活動だなと思ったんです。そのことも志望動機の一つとなって入社しました。

徳永 譲渡活動を仕組み化すれば保護猫はもちろん、地域にも貢献できると考え、参加することにしました。あと単純に、猫が大好きだということもあります(笑)。

石井 私は獣医師になる前から保護猫・保護犬の殺処分のことが気になっていて、「どこかで殺処分数を減らす活動に関われないかな」と考えていたんです。ですから、この活動について聞いた瞬間に「参加させてもらおう!」と決めました。

二平 保護動物については以前から関心があって、動物保護施設でアルバイトをしたこともありますし、我が家で飼っている猫もみんな保護猫です。それに、これから犬や猫を飼おうと思っている皆さんに保護動物のことをもっと知ってもらいたいという気持ちもあり、ぜひ力になれればと思いました。

大野 私も、自分たちの力で少しでも殺処分数を減らすことができればいいなと。それに保護されてうちの病院に来たのもご縁ですから「ネコちゃんたちが飼い主さんと出会って、幸せになるところまで見届けたい」と思い、メンバーに立候補しました。

―― 保護猫たちが医療センターに来てから譲渡されていくまでの流れについて説明していただけますか。

徳永 保護するまでの経緯については、獣医師会や保健所から依頼されるケースもあれば、(24時間体制で夜間救急も受け付けているため)夜中に一般の方から「交通事故に遭って倒れている猫を見つけた」といった連絡が寄せられて、負傷猫を受け入れることもあります。保護した後は必要に応じて治療などのケアを施しますし、自活できないほど幼い子猫は、ある程度大きくなるまで育てます。

そうして譲渡できる状態になったら、里親になりたいと希望する方のうち、センターで定めている条件に合う方に来院してもらい、保護猫との面会やスタッフとの面談をしてもらいます。その結果、スタッフが大丈夫だと判断させていただいた方には「トライアル」として、一週間ほどご自宅で一緒に過ごしてもらうんです。トライアルの期間中は「LINE(スマホアプリ)」で猫の写真をセンターに送ってもらい、困りごとがあればスタッフがアドバイスをします。トライアルを終えて猫の状態に問題がないことが確認できれば、いよいよ正式な譲渡へと話を進めていきます。

―― 里親の募集方法は?

大野 まだ大々的な宣伝などはしていなくて、スタッフの知人に声をかけている状態です。これまでに15頭ほどの譲渡が成立しましたが、譲渡先は神奈川県内と県外で半々くらい。遠方だと、名古屋にもらわれていった子もいます。

―― 里親候補者の方と猫とのマッチングはどのように行われるのですか?

二平 候補者の方は実際に猫たちに会って「この子がいいな」と感じたネコちゃんと一緒に遊び、性格などの特徴を把握してから、どの子にするかを決定されます。長い付き合いになりますから“可愛がれる”ということも大切だと考えているんです。

―― センターでは何頭くらいの保護猫を預かることができるのですか?

蓮見 いまのところ、負傷猫で2〜3頭、子猫なら4〜5頭ですね。子猫の場合はこの数を多少オーバーしても、スペース的にちょっと我慢してもらうことで何とか対応できますが、負傷猫が規定数を超えた場合は受け入れが難しくなります。

二平 センターに滞在する期間は、平均で子猫なら2か月くらい、大人の猫だと3か月くらいになりますね。

―― 実際に譲渡されたケースで、特に印象深かったのは?

石井 男の子と女の子の2頭を一緒に譲渡させていただいたことがありますね。生後2か月くらいの子猫を5頭まとめて保護したのですが、当初は寄生虫もシラミもいて…と大変な状態。まずワクチンを打つなどして、衛生状態を整えました。里親になってくださった方のお宅は過去に猫を飼ったことがあり、「保護猫を受け入れたい」という志をお持ちで、私たちとしてもぜひお譲りしたいなと。女の子の方は、センターではいつも真っ先に遊びにいってしまうような“おてんばさん”だったのですが、いざトライアルに行ったら怖がりになってしまって。引き取ってくださったご夫婦のうち、お父さん(ご主人)の膝の上にばかりいたそうです。

―― 里親さんの決まったネコちゃんを見送る時は、どんな気持ちですか?

蓮見 無事に巣立っていってくれて嬉しい一方で、寂しさも覚えます。でも病院にいると、その子だけをずっと見ていてあげることはできませんし、やっぱり特定の飼い主さんの家族として、お家で飼われてほしい。まぁ、複雑な気持ちです(笑)。

大野 私も「よかった!」という思いと「ああ、行っちゃうのか…」という寂しい気持ちの両方があります。やっぱり愛着が湧いてしまうんですよね。でも「幸せになれるんだから、いいことなんだ」と考えるようにしています。

石井 ただ「ねこむすび」の場合、「お渡ししてお別れ」ということではありません。子猫はどうしても体調を崩しやすいので、当センターではペットショップなどから迎えた子にも、ある程度の年齢になるまでは定期的に検診を受けるようおすすめしているんです。「ねこむすび」でもらわれていった子も、よほど遠方にお住まいでない限り、大人になるまで月に一度は通院していただくようお願いしているので、里親さんが毎月顔を見せに来てくれます。先ほどご紹介した2頭一緒にもらわれていった子たちは、私が飼っている子(本記事のトップ画像に写っている“なめろう”くん)のきょうだいなので、センターに来てくれた時は“同窓会”をさせているんですよ。

―― 制度を運用する上での課題は?

徳永 いまのところ、受け入れから譲渡までの世話や費用はすべてセンターが負担しています。でも将来的には地域の皆さんにもボランティアスタッフとして関わっていただいたり、費用の一部を募金などの形で負担していただけるようにできれば理想的だと考えています。そうすれば、より持続可能性の高い活動になりますし、地域の皆さんに動物たちと触れ合っていただくよい機会になるはずです。それによって「人と動物が共生する地域社会」の実現に貢献していければと。そんな状態に近づけていくことが今後の課題ですね。

二平 センターのロビーなどに保護猫たちが暮らせる大きなおうちを作って、通行人の方にも「あ、猫がいるんだ」と見てもらえるような環境がつくれたらいいですよね。それに、里親さんのところへ旅立った子たちの同窓会のようなイベントに地域の方々にも参加してもらうなど、取り組みに関する情報を積極的に発信する機会もつくっていきたいですし。

―― 記事を読んでくださる皆さんにメッセージを。

石井 まずは保護猫という「命」があることを多くの方に知っていただきたいです。もちろん、ペットショップさんにも可愛い子がたくさんいて、そこから家族を見つけるのもすてきな出会いです。でも「この世に生まれてしまって、誰かが飼わないと消えてしまうかもしれない命がある」というのを知ってほしいんです。「ねこむすび」では動物病院である当センターが里親さんの飼育をフォローアップしていくので、初めて猫を飼う方にも、飼育に必要なものとか、猫という動物の特性とか、いろんなことをアドバイスさせていただくこともできます。関心を持っていただいた方には、ぜひお気軽にご相談いただきたいと思っています。

徳永 ネコちゃんはすごく可愛いし、一緒にいるだけで幸せになれる動物です。私としてはそんな幸せをいろんな人に知ってもらいたいですね。その一方で、最近はネコちゃんもすごく長生きをする時代になっていて、20年以上生きる子も珍しくありませんから、里親になる人には、最後まで面倒を見るだけの覚悟を持っていただく必要があります。その点、当センターにはいろんな分野の専門家が揃っていますし、フォローアップ体制も万全となるよう努めています。

蓮見 いま里親になることを検討されている方は、かなり意識が高く、保護猫をめぐる現状についても詳しくご存じの方が多いと思います。ですから「ねこむすび」を通じて里親になられた方は、ぜひ周りの方にもご紹介いただけるとうれしいです。また、保護猫を飼うことに関心がある方の中には、里親制度を運営する団体選びで迷われる方もいると思います。私たちは譲渡後のフォローアップもできるので、選択肢の一つとして考えてもらいたいですね。

大野 私もみんなと一緒で、こうした活動をしていることを少しでも多くの人に知ってほしいですし、保護猫を受け入れようとされている方に対しては「ネコちゃんたちに最後まで、たっぷり愛情を注いであげてください」とお願いしたいです。

二平 これから猫を飼おうと考えている方には、ご自身の選択によって「救える命がある」ということを知っていただきたいですね。ネコちゃんとともに暮らしたいと願われたときは、このセンターに限らず、お近くで譲渡に取り組んでいる団体を調べたり、里親会をのぞいたりしていただければうれしいです。

―― ありがとうございました。

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