相模原どうぶつ医療センターBlog

「もし愛犬が『白内障』になったら…」動物眼科専門医が教える原因と治療法

「よく耳にするけど、どんな病気か詳しく知らない」という方も多い「白内障」。実は人間ばかりでなく、犬も患いがちな病気の一つなのです。今回はそんな犬の白内障の原因やリスク、治療の方法について、眼科専門医である寺門邦彦獣医師が説明します。

寺門邦彦(獣医学博士)

比較眼科学会所属。麻布大学附属動物病院全科研修医、日本獣医生命科学大学大学院 獣医外科学教室(眼科)、麻布大学附属動物病院特任助手 眼科担当を経て、2018年より現職。

水晶体が白濁する「白内障」 原因は病気・遺伝・加齢

眼球の中でレンズの役割を担っている水晶体。これが何らかの理由で白く濁ってしまう病気を「白内障」といいます。一部しか白濁していない場合には視覚障害を伴いませんが、濁りの範囲が拡大していくにつれて、どんどん目が見えにくくなっていきます。

白内障を患った犬の目。水晶体が白濁している。

白内障の原因の一つとして考えられているのが「他の病気による誘発」です。水晶体の位置がずれる「水晶体脱臼」や、網膜の細胞の性質が変化してしまう「網膜変性症」といった目の病気はもちろん、「糖尿病」などの目と関係のない病気も原因となり得ます。

こうした病気にかかっていないにも関わらず、白内障になってしまうケースもあるのですが、そのときに疑われる主な原因は「遺伝」と「加齢」です。

遺伝というのは、要するに「生まれつき白内障になりやすい犬」ということですね。遺伝の素因を持っているワンちゃんは1歳前後でも発症する可能性があると考えられています。多くの研究などから「遺伝的白内障にかかりやすい犬種」はある程度の見当がついているので、一緒に暮らすワンちゃんが該当しているかどうか、一度確認してみてはいかがでしょうか。

一方、加齢に伴う白内障については「6歳」が診断の基準となっています。近年は犬たちの平均寿命も延びてきているので、6歳で高齢というのは違和感を覚える方もいるかもしれませんけども。ともかく6歳以上のワンちゃんの飼い主さまは常日頃から、目の状態をチェックしてあげてください。

早めの診察・通院で適切な治療の選択を

白内障が進行すると目が見えにくくなるだけでなく、炎症により強い痛みや合併症を引き起こします。それにより目の中でも出血が起こり、痛々しくて見ていられないような状況になることあるのです。

やがては目の機能を完全にそう失して、光すら感じられなくなってしまうこともありえますので、少しでも「目が白いな」と感じたら早めに病院へ連れていってあげてください。

相模原どうぶつ医療センターでは、水晶体の白濁でワンちゃんが来院されると、まず「視覚障害の程度の検査」と「白濁の原因の特定」を行います。白内障以外の理由で白っぽく見えている可能性もありますので、慎重に診断を下さなければなりません。

「白内障」という診断がつけば、さらに原因も特定し、その後の治療方針を決めていきます。白内障の治療といえば手術を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、手術をするにはいくつかの条件があります。そのうちの一つが「視覚障害が認められること」です。きちんと目が見えている間は、基本的に経過観察することになります。

手術する時期を検討するには「生活への支障度」「痛み」「手術のリスク」など、様々な要素を考慮しなければなりません。適切なタイミングを逃さないためにも、早めに診断を受けて定期的に検査を行うことをおすすめします。

加えて「白内障以外の病気を患っていないこと」も、手術適応かどうかを判断するための重要な条件になります。術中は全身麻酔をかけますので、それに耐えられる体でなければ手術は難しいのです。

また、白内障以外の目の病気があると、メスを入れることでその病気を悪化させる危険性もあります。そうした場合は担当医と相談し、最適な治療方法を決めることになります。

犬の白内障の手術はどのように行われる?

犬の白内障の手術は、人間のものとあまり変わらない方法で行われます。

まず眼球に3mm程度の切開を加えます。次に、白く濁った水晶体を超音波で砕きながら、専用の器具で吸い取っていきます。水晶体は「水晶体嚢」という膜で包まれているのですが、その膜を残して中身を取り除くのです。

水晶体は水晶体嚢という膜に覆われている

水晶体をすべて取り除いたら、空になった水晶体嚢に、犬用の人工レンズを入れます。レンズは折り畳んだ状態で挿入し、膜の中で開きます。そして最後に目の表面を縫います。手術に要する時間は主に水晶体の硬さに左右されますが、早ければ30分ほどで終わります。

手術後はどうしても炎症が起きるのですが、それをスムーズに抑えないと、合併症のリスクが高まります。そのため、手術後は入院することになるのですが、相模原どうぶつ医療センターでは約1週間が目安です。

水晶体が白濁していた手術前(左)と手術1か月後(右)

高度な専門性を要する手術「技術」と「設備」が不可欠

白内障の手術は、受けられる医療機関がある程度限られてきます。その理由の一つは「獣医師の技術の問題」です。

白内障の手術は切開した3mmほどの幅の中ですべての作業を行う、大変細かい作業になるので、手術用顕微鏡を用いて行います。

顕微鏡による手術というのは肉眼で見て作業するのと違い、とにかく遠近感が掴みにくい。例えていうなら、鋭く削った鉛筆を両手に1本ずつ持ち、その先端同士をピタリと合わせるような繊細さが要求されます。

しかも、眼球は他の器官とはまるで異なる特殊な構造をしているので「まっすぐに切って、そこを縫う」という基本的な作業でさえ、かなり難しいものになります。

そのため、たくさんのトレーニングを積んだ獣医師でなければ、手術を行うことができません。私も大学で何度も練習しましたが、最初はなかなかうまくいかず、「眼科はやめようか」と真剣に悩んだほどです。

白内障の手術を行える医療機関が少ないもう一つの理由は「設備の問題」ですね。顕微鏡を中心とする設備や機器の進歩は目覚ましく、そのことは手術の成功率が高まった大きな要因となっていますが、非常に高価なのです。

手術を受ける病院を検討する際には「入院環境」にも目を向けるようにしてください。術後の入院中になんらかのストレスがかかって「吠える」「動き回る」などの行動を繰り返してしまうと、炎症がおさまるどころか、悪化してしまうこともありえます。

顕微鏡を用いて行う白内障手術

ワンちゃんの性格を考慮して「他の犬と一緒に過ごさなければならないのかどうか」「人の往来はどのくらいの頻度なのか」など、気になることはあらかじめ調べておきましょう。

情報をしっかり集め、経験豊富で信頼できる獣医師を探してあげるのも、飼い主さまの大切な仕事といえるでしょう。

回復の可能性はあります!放置することなく早めの相談を

白内障は年齢や犬種、健康状態を問わず、どんなワンちゃんでも患う可能性のある病気です。どの子であっても「絶対に大丈夫」ということは言い切れません。

しかし、たとえ白内障と診断されたとしても、焦ったり、落ち込んだりすることはありません。原因やステージごとにできる治療がきっとあるはずですし、手術で治る見込みだってあります。

ただ、病気が進行しすぎるとその分できることは少なくなります。珍しい病気ではないので軽く考えてつい放置してしまう方もいますが、先ほども申し上げた通り、炎症が起きると様々な合併症を引き起こしかねません。

いま一度ワンちゃんの目をチェックして、気になることがあったら、できるだけ早めに病院を受診してください。

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