相模原どうぶつ医療センターBlog

ドッグトレーナー研修体験記「人と犬の共生先進国・デンマークで学んだこと」

相模原どうぶつ医療センターでしつけを担当するトレーナーの米田です。2019年9月、私は「RPTMというトレーニングメソッドを提唱している動物行動学者のヴィベケ・リーセ先生に会うこと、それに現地の犬事情やトレーニングを学ぶことを目的にデンマークを訪ねました。この記事ではその際の模様についてレポートさせていただきます。

米田和輝(相模原どうぶつ医療センターしつけ担当)

北海道出身。2002年国際ペットカルチャー総合学院卒業。専門学校講師、嘱託警察犬指導手を経て、14年より現職。現在はラブラドール・レトリバー(3代目)の育児に奮闘中。
《保有資格》日本ドッグトレーナー協会A級ライセンス/ジャパンケネルクラブ公認訓練士/愛玩動物飼養管理士/RPTM Japan Bronze Basic Level Trainee

台風をかいくぐり、一路デンマークへ

台風15号が関東を直撃した9月9日(月)、私は成田空港にいました。交通機関がマヒしていたため、ほとんどの人が移動できず、空港は閑散としており、店も全く開いていない状態。

ちなみに、私が到着したのは前日の夜。宿をとることができずに車中泊をしましたが、強風で辺りの木が倒れ、車は揺れ、物が飛んできて…と、とても恐ろしかったです。立ち寄ったコンビニは窓が割れて水浸し。いま思えば無事でよかった、もうあんな無茶はしません…。でも、当日に家を出て飛行機に乗り遅れ、2日遅れで合流した参加者もいたので、無理したかいがありました(?)。

飛行機は予定より2時間遅れの正午ごろ離陸し、オランダのアムステルダムへ。アムステルダムはデンマークのオールボーまでの乗り換えのためだけの立ち寄り。そこで遅めの昼食をとろうとするものの、値段が日本の約1.5倍。ちょっとしたワンプレートが1,500円以上もして、物価の高さにたじろぎました。

オールボー空港に着いたのは現地時間22時40分ごろ。デンマークと日本との時差は7時間なので、日本時間でいえば9月10日の5時40分ですね。成田を発ってから約18時間かかりましたが、遅い時間だというのにヴィべケ夫妻が空港で待っていてくれて、疲れが吹き飛びました。

ヴィべケ先生のお宅まではオールボー空港から車で20分くらい。家の周囲は見渡す限りの草原で「こんな場所で暮らせる犬は、たっぷりと運動できて幸せだろうな」と思いました。

デンマークにいる間は雨が多く、晴れていたのが急に降ったり、スコールのような土砂降りがピタッと止んだと思えばまた降る…の繰り返しだったり。気温はだいたい13~17℃で、北海道育ちの自分でもやや寒いくらいでした。

8日間にわたる研修がスタート

到着した翌日からセミナーがスタート。初日は先生の家の隣にあるトレーニングルームでコーヒーを飲みながら、「サービスドッグ」についての講習を受けました。

サービスドッグは日本でいう介助犬やセラピードッグに近い存在で、人のために働いてくれる犬のこと。映画館や空港、モール、学校、バスなどに入ることを法律で認められています。ただ、その際はマークの付いたハーネスを着用する義務があり、オーナーも普段から身分証明のIDを所持しています。このサービスドッグの認定をするのが、ヴィべケ先生が代表を務めるデンマーク・サービスドッグ・ソーシャルドッグ協会です。

サービスドッグがどんな状況でも落ち着いて振る舞えるようトレーニングをさせるヴィベケ先生

驚いたのが「人間の病院の中にもサービスドッグが入れる」ということ。全ての病院で入館が認められているわけではありませんが、子どもの診察の手助けをしたりすることがあるのだとか。最近は日本でも時折、医療機関で患者さんの心を癒す犬たちのニュースを目にしますが、デンマークではより一般的なものになっているようです。

ホワイトシェパードのインディと一緒に「椅子に乗せて動かしても堂々とふるまう」「ベッドの上で診察を受けている人のそばにいて安心させる」「服のファスナーを下げる」といった、トレーニングの様子やサービスドッグの仕事を見せてくれました。

その中で印象深かったのは「どの作業も犬のテンポで行い、不安そうだったらすぐやめる。犬を尊重すること」という言葉です。これはとても大事な考え方で、サービスドッグに限らず、普通の犬のトレーニングでも同じことがいえると思います。

また、「オビディエンス(『まて』や『おいで』、『ついて』などのトレーニングのこと)も大切で、信頼関係を構築し、犬と協力して訓練を行うべき」とも仰っていました。トレーナーだけでなく、全ての犬の飼い主がこの気持ちを持てば、どんなに良い関係が築けることでしょう。

トレーニングでは犬を「楽しませる」

2日目は「狩猟犬」について教わりました。狩猟犬協会のトレーナーであるヘンリクさんが狩猟事情を説明した後に、デモンストレーションを見せてくれます。

デンマークでは「生体系のバランスを保つため」および「自然保護のため」に狩猟を行なっており、期間は9月1日~2月1日と決められているそうです。ライセンスは16歳から取得できますが、銃の種類ごとに異なる試験を受けなければならないなど、内容は細かく設定されています。ハンターは40~45歳くらいが多く、高齢化してきているのだとか。

デモンストレーションでは、獲物を探すために草原を捜索し、発見した鳥を飛び立たせ(デモなので実際にはいませんが)、撃ち落とされた獲物を回収しに行く…という一連の仕事を見せてくれましたが、いずれの作業も非常に集中して行われていました。そしてやはりその間も、犬は力で押さえつけられたり、強制されたりすることなく、訓練を楽しんでいるのです。

日本では未だに「トレーニングは厳しいもの」というイメージがあるでしょうが、トレーニングは本来、犬と協力して行う楽しい作業であるべきです。ここもぜひ真似したいところです。基本のトレーニングは「1回3分くらいのものを1日に3回」とのこと。“短く楽しく”ですね。

3日目は初日と同じく「サービスドッグ」について。話をしに来てくれた実際の飼い主さんは、「大事なのは飼い主と犬が合っているかどうか」と仰っていました。日本でもたまに「運動させてやれないのに大型犬や活発な犬を飼ってしまう」など、人と犬のミスマッチが見られますよね…。

また、「飼い主はトレーニングの理論、犬の行動と教育、病気についても学ぶ必要がある」とのこと。犬という動物そのもののことや育て方に関する知識を持っていなければ、飼育が上手くいくはずがありません。非常に大事なことですね。

他に「なるほど!」と思えたのが、「母犬が6歳以上の子犬はサービスドッグのパピーテストすらしない」ということ。理由は、母犬が年齢を重ねて我慢強くなっていると、子に対して「ダメなことをダメ」というしつけをしなくなってしまい、言うことを聞きにくい子に育つ傾向があるからだそうです。トレーニングは生まれた時から始まっているのですね。

行動に問題のある犬に“足りないもの”

4日目は「RPTMを活用した子犬や成犬のトレーニング」について。実際の飼い主さんに教えているところを見学しました。

基本は「ついて歩く」「ふせ」「おいで」「ヒールポジション」などのオビディエンストレーニング。全ての犬たちが飼い主さんとしっかりアイコンタクトを取っていました。そんな犬たちでも、やはり不意に他の犬が部屋に入ってきたりすると吠えることもありましたが、その都度、飼い主さんは叱るのではなく、きちんとフォローをして安心させてあげており、非常に良い関係性だと感じました。

吠えっぱなしにさせておくことはなく、常に人が犬の行動を注意深く観察し、良い行動へ導いていく。それがスムーズにできるのは、毎日の練習のたまものでしょう。

5日目はデンマーク軍におけるトレーニングの見学。デンマーク軍にいるのはシェパード、マリノア、ラブの3犬種です。軍用犬になる前にはテストが課されますが、入隊すれば当然ながら戦地にも一緒に行くわけで、心が弱く怖がりな犬は採用されません。また、生後6か月と1歳の時に検査を行い、健康上の問題がないかも調べるそうです。

見せてもらったトレーニングの内容は「実際の麻薬を使った探知訓練」と「草むらや地面に落ちているものを捜索する訓練」、それに日本でもよく知られる「防衛訓練(腕にかみつくもの)」の3つ。私は防衛訓練で、防護スーツを着て襲われました。

もちろん、これらも「楽しいこと」「遊びの延長」として教えています。そして、根底にあるのはしっかりとしたオビディエンス。 「やはりオビディエンスは全てのコミュニケーションの基礎になるな」と感じました。

6日目の午前中はフラットコーテッドレトリバーと飼い主さんによるしつけの練習を見学。興奮しやすい犬のコントロール方法や、その際に飼い主がとるべき行動を学びました。

練習はリードをつけずフリーな状態で行われ、飼い主さんが望む行動をしたときはよく褒め、飛びつくなどの行動に対してはすぐに対処をします。とにかく飼い主さんがよく動き、犬を観察し、行動を予測していました。

講習の中で「行動に問題のある犬は刺激不足であることが多い」という話がありましたが、私の経験からも、確かにその傾向はあると感じます。退屈な状況に置かれるから、問題行動を繰り返し、それが定着してしまう。つまり、人間にも問題があると思うのです。

午後は獣医師から、病院での診察やワクチンについて説明してもらいました。獣医師もしつけの重要性を非常に強く認識しており、特に「社会化」に関しては「最も重要なこと」と語っていました。デンマークでは臆病な犬に育たないよう、とにかく早期からの社会化を徹底しているようです。社会化期に適切なしつけをしなければ、将来的に怖がりな犬になる可能性が高い上に、後から性格を直すのは非常に難しい。そのことを獣医師がよく理解しており、飼い主に伝えているのです。

近頃は日本でも獣医師が行動学を学ぶようになってきてはいますが、犬の精神面を考慮したアドバイスはまだ十分にできていないように思います。

犬連れで楽しめる動物園にびっくり!

7日目はオールボー動物園へ。トラの剥製が展示されていましたが、生きていた頃はヴィべケ先生がトレーニングしていた子だそうです。柵越しではなく、檻の中に入ってトレーニングをしていたそうですが、さすが動物行動学者、すごいですね…!

園内では様々な動物がトレーニングされているらしく、バクが寄ってきてお腹を見せて「触って~」というのがとても可愛かったです。ちなみに体重はおよそ250kg。立ち去ろうとする私たちを寂しそうに追いかけてくるさまも、愛くるしかったです。

園内にはジャイアントシュナウザーやラブラドールなど、犬を連れたお客さんが多く、驚かされました。日本にも犬と一緒に回れる動物園はあるのでしょうか?

最終日となる8日目は動物病院を見学。「犬に負担をかけない診察」を心掛けているとのことで「診察時の保定(おさえること)も極力無理をしない」「暴れてしまう犬は抑えるよりも麻酔を使う」など、日本との違いを感じました。当院でもストレスを軽減するべく、診察時におやつを与えるなどしていますが、できることはまだまだありそうです。

午後にはショッピングモールで行われた、インディやRPTMトレーナーの愛犬であるレオンベルガーによるサービスドッグのトレーニングを見学。モール内でも落ち着いて指示に従っている犬たちの姿に、人だかりが。もしかしたら、カメラを構えた10人以上の日本人がヴィべケ先生のトレーニングを凝視している異様な光景も、人を集める要因になったのかも…。

デンマークは犬との共生の先進国なので「モールに犬がいるのは当たり前の光景だろう」と思っていましたが、買い物客の皆さんは「一体何をしているんだ?」という感じでした。サービスドッグのトレーニングなどは、デンマークでもまだ見慣れないものなのですね。

街でも感じたデンマークの犬カルチャー

8日間の研修は、私にたくさんの刺激や気づきを与えてくれました。例えば「デンマークではほとんどの飼い主さんがおやつを携帯している」ということ。犬の良い行動に対してはすぐにおやつをあげてそれを褒めてあげるのです。

また、「散歩中に吠えている犬がほとんどいなかったこと」も驚きでした!犬同士がすれ違う場面をあまり見なかったこともありますが、吠えている犬が本当に少なくて、初めて会った私にも警戒することなく寄ってきて挨拶してくれる。やはり犬の社会化が推奨されている影響が大きいと感じます。

一方で「思ったよりも犬が少ないな」と感じました。街中あちこち歩いているのかと思えばそうでもなく、日本の方が多いかもしれません。

それでも、多種多様な犬に会うことができました。パグ、ペキニーズ、ケアンテリア、ポメラニアン、シェットランドシープドッグ、ダックス、コリー、ボクサー、シェパード、ロットワイラー…ただ、プードルを見かけた記憶がありません。たまたまでしょうか?セミナー終了後などの空き時間には、ランニングで街を散策しました。オールボーの街並みは非常におしゃれ。映画で見るような建物が並び、ビルが少ないため圧迫感が少なく、空がきれいに見えました。歩道と自転車道、車道とが分かれていて歩きやすい。それに日本の首都圏と比べると人口密度も高くなく、ちょうど良かったです。帰国後、関東は狭い、人が多い、犬の散歩はしにくい、ということでストレスを感じたほどでした…(笑)。

日本の方が経営しているお店を発見。お茶や唐揚げなど日本の味にホッとしました

今回の研修では、デンマークの犬事情やトレーニングの様子などを自分の目で見ることができて、本当に貴重な経験になりました。

このようなセミナーを企画してくれたRPTM JAPANの皆さま、英語の話せない私を助けてくれた参加者の皆さま、現地でデモンストレーションを見せてくれた飼い主さん、デンマーク軍の方々、そして何より、研修の内容を考えて提供してくれたヴィべケ夫妻に深く感謝し、今後の糧としたいと思います。

デンマークツアーのディプロマ(修了証明書)を授与してくれたのはヴィベケ先生のご主人・ヤンさん

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