相模原どうぶつ医療センターBlog

相模原どうぶつ医療センター診療科紹介【行動診療科編】「その行動、しつけではなく健康の問題かも?」

一般的に“しつけの問題”と考えられがちな「吠え」や「噛みつき」が、病気やホルモンバランスの乱れが原因で起きている可能性があることをご存じですか?12の診療科を備えている「相模原どうぶつ医療センター」の各科の特徴を紹介するこのシリーズ、今回は問題行動についての診察・治療を行う「行動診療科」について、獣医師・石井綾乃がご説明します。

石井綾乃 獣医師、博士(獣医学)

神奈川県横須賀市出身。日本大学生物資源科学部獣医学科卒業、日本獣医生命科学大学大学院博士課程修了。日本獣医動物行動研究会所属、どうぶつの総合病院行動診療科研修医。日本獣医生命科学大学大学院および理化学研究所脳科学総合研究センター神経老化制御研究チーム大学院生リサーチ・アソシエイトを経て、獣医学博士号を取得し、現職。

[愛犬&愛猫]猫のなめろうくんは当院の猫を保護する活動(ねこむすび)のご縁で家族となりました。犬のさんがくんはブリーダーさんを直接訪問し、家族に迎えました。医療センターのしつけ教室では2頭とも患者さんであるワンちゃんの犬慣れ&猫慣れに活躍してくれています!

行動をただすだけでなく、原因疾患まで治したい。

「行動診療科」といってもピンとこない方も多いでしょうが、人間の病院でいうところの「精神科」をイメージしていただくといいかもしれません。「病気や心の乱れが原因で変わってしまった行動をただす」ということを目的とする診療科です。

相談として多いのは「長時間、鳴き続ける」「自分の体を噛んだり引っかいたりする」といったことです。そういった問題行動を改善するために、獣医師だけでなく、センター内のトレーナーとも連携を取りながら診察や治療を行っています。

「行動をただす」という目的については一般的なしつけ教室などと変わりませんが、大きく異なるのは「病気の治療もできる」ということ。飼い主さまがいなくなると不安になり、自傷行為などを繰り返す「分離不安症」や、精神の安定に影響を与えるホルモンであるセロトニンの不足によって落ち着きがなくなる「常同障害」などの原因疾患にまでアプローチできるのが行動診療科の強みといえるでしょう。

徹底的に話を聞き、治療方針を検討する。

診察ではまず、飼い主さまのお話をじっくり聞くことを心がけています。行動診療において、「この病気だから、絶対にこの症状が出る」「この犬種は必ずこんな問題行動をする」ということはありません。「柴犬やスピッツ系の犬は自分の尻尾を追いかけやすい」など、多少の傾向はあるものの、飼い方や住環境、その子の性格等、様々な要因によってあらわれる症状が変わってきます。

また、当科で診ている病気の多くは、病名を診断するための客観的な指標が少ないのが現実です。ですから、問題行動の原因や病名を特定する上で、詳細な問診が欠かせません。「日本獣医動物行動研究会」作成の「診察前調査票」に沿って飼い主さまに質問をしていき、問題点を探っていきます。

問診の次は、得られた情報を基に「相談された問題が本当に異常な行動であるかどうか」を考えていきます。実は「飼い主さまが異常だと思っている行動が、動物にとっては正常な行動で、しつけの問題だった」というケースが多々あるんです。

例えば、ワンちゃんの「食糞」。犬には、子どもがウンチをすると、それを舐めとって巣をキレイにするという習性があるので、ウンチを食べること自体は異常ではないんです。ただ、それを飼い主さまがやめさせたいのであれば、我々獣医師やトレーナーがしつけのお手伝いをします。「動物にとって正常な行動だから」といって必ずしもお断りするわけではありませんので、少しでも心配なことがあったら、気軽に相談してほしいですね。

診察によって「病気に起因する異常な行動だ」と分かれば、速やかに治療に移ります。主な治療方法はリラックス効果のあるサプリメントの活用と行動修正トレーニングの二本柱です。サプリメントはあくまで補助食品なので、それだけで症状が改善することはほとんどありませんが、トレーニングと組み合わせることで、効果が期待できます。

また、「自傷行為がやめられず、出血している」など症状が重篤な場合には、サプリメントよりも強力な薬を使った治療を行うことも。ただ、やはり一番大事なのはトレーニングだと考えています。当センターで訓練を行うのはもちろん、ご家庭でも同様のことができるように、「こういうトレーニングをしてください」と飼い主さまへアドバイスすることも忘れません。

センターのスタッフと飼い主さまが協力しなければ成果を出すのが難しいので、「こうなってほしい」というゴールを全員で共有し、それぞれが最善を尽くせるような体制で治療に当たっています。

おもちゃを用いた、ケージに入る行動修正トレーニングの様子

人間だけの病気ではない?動物の「認知症」に注意を。

最近は動物も長生きするようになり、「犬や猫の認知症」が注目されるようになってきましたが、この認知症も問題行動の原因疾患の一つなんです。「夜鳴きが激しくて病院で調べてみたら、重度の認知症で手の施しようがなかった」という事例もありました。

一説によると「犬の認知機能は8歳を境に低下し始める」といわれます。また、認知症の初期症状として「食事したことを忘れる」「外でしか排泄をしなかった子が室内でするようになる」「睡眠サイクルが変化する」といったことが挙げられるので、年齢や行動が気になる方は、ぜひ一度、病院で診てもらってください。

認知症を含め、問題行動を伴う病気を発症する大きな要因の一つはストレスだと考えられていますが、どんな場面でストレスを感じるのかはその子その子によって違います。例えば、定期的に通っているトリミングが、実はワンちゃんの心の負担になっていたなんてことも。思いもよらぬことが要因になっている場合もあるので、些細な変化を見逃さないことが大切です。

そして、ストレスを予防するには、小さい頃からあらゆるものごとに慣れさせておくことが重要といわれています。他の犬や人、病院や屋外など、いろんなものや環境に触れさせたり、しつけ教室に通ったりして、様々なものごとを受け入れられる子に育ててあげてください。

行動に疑問を持ったら早めに病院へ

ワンちゃんやネコちゃんの問題行動に悩んでいて、しつけ教室に行くか、病院で受診するか迷っている方は、まず病院の行動診療科にかかることをおすすめします。

詳しく検査をすることで、「これはしつけの問題だから教室に通おう」とか「脳に異常があるから、治療としつけを並行してやろう」とか、今後の方針が明確になるでしょう。

これまでにも「もっと早く『健康状態と問題行動に関係がある』と知っていたら、治療できたのに」と後悔される方がいらっしゃいました。そうならないために、「うちの子のこの行動はどうなんだろう?」と疑問を持った段階で早めに手を打ってください。

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